心臓などに疾患がある患者さまには
抗菌薬の予防投与を考慮すべき歯科治療があります。
その歯科治療は以下のものです。
抜歯 ・ 歯根外科手術 ・ 歯石除去 ・ インプラント植立
歯牙再植 ・ 歯根端切除術 ・ 根尖孔外の歯内治療
骨膜下局所麻酔手術といった硬組織・軟組織から出血をきたす処置
その抗菌薬の予防投与の方法は、
経口が可能な場合は、錠剤などのお薬を
1~2時間前に飲んできて頂きます。
経口が不可能な場合は、1時間ほど前の点滴での投与になります。
心臓に疾患がある方、又は、病歴がある方に
抗菌薬を事前投与せずに抜歯したなど場合、どんなことが起きてしまうのでしょうか?
・・・と、その前に 心臓の機能について簡単にお話しましょう。
血液は、全身の臓器に酸素や栄養分を与えて右心房に戻ってきます。
この血液は「三尖弁」という「弁」を通って右心室に入ってきます。
それから 肺動脈弁を通って、肺動脈へ・・・
そして肺に送り込まれ、肺で酸素を取り込んで二酸化炭素を出し、
綺麗な血となります。(動脈血)
この後、肺静脈を通って左心房に入り、左心室に行きます。
左心室は、全身に行く血液を送り出す最も重要なポンプの役割を持っていて
左心室が収縮して、全身へ綺麗な動脈血が送り出され、
脳や内臓、全身の筋肉、臓器に酸素と栄養分を与え、また右心房に戻ってきます。
この繰り返しになります。
さて・・・・抜歯をした場合ですが、
抜歯をした所は、歯を抜くわけですから
「穴」ができます。
その抜いた部分の「穴」には、
血液の塊(カサブタのようなもの=血餅)ができます。
1週間ほどすると、薄皮が1枚できてきて、
個人差はありますが、3~6ヶ月ほどして固まってくることによって穴がふさがります。
血の塊(血餅)は、細菌にとっては非常に過ごしやすく、集まってきます。
そのため、抜歯後1週間以内の頃は、口内には たくさん 細菌がいます。
その細菌の塊が流れて、心臓の弁に付着すると、弁の構造が破壊されて
「心内膜炎」(Endocarditis) を引き起こします。
このように、心内膜炎は、心内膜に炎症をきたす病気で
一般的には、「細菌性(感染性)心内膜炎」のことを言います。
感染性心内膜炎
( IE : Infectious Endocarditis)
本来、心内膜というものは、ツルッとしていますが、心臓内の異常な血液の流れで
「弁」に目に見えないくらいの小さな傷ができる場合があります。
口の中の血管も全身につながっているので
抜歯などして付着した菌が血液に乗って 「目に見えない小さな傷」に付着し、
そのバイ菌が集まって、「疣腫(ゆうしゅ) vegetation」(=いぼ状の感染巣) となり
「弁」が破壊されていきます。
すると、穴が空いた状態になってしまい、逆流を防ぐことができないので
血液が常に逆流するような状態が生まれるということになります。
更に、感染性心内膜炎には、2種類あります。
突然 発症して、数日中に危険な状態になるものが
「急性感染性心内膜炎」
と呼ばれるものです。
38~40度の高い熱が ドーーーン と出ます。
脈拍が速くなる、高熱による疲労感などの症状が確認でき、
高齢の方に多く見られます。
原因は、黄色ブドウ球菌、溶血性連鎖球菌、肺炎球菌などです。
もう1つは
「亜急性感染性心内膜炎」
と呼ばれるものです。
症状は、疲労感、37.2~38.3度の軽度の発熱、中等度の頻脈、体重減少、
発汗、赤血球数の減少(貧血)などで、
こちらは、先ほどの「急性感染性心内膜炎」とは異なり、
基礎心疾患(生まれつきの疾患)のある若年者に多く見られます。
若く、体の抵抗力もあるので、体が菌に対して抵抗力を示すことによって
高齢者の方が多くかかる急性感染性心内膜炎に比べれば
症状は軽いものとなります。
原因となる菌は、緑色連鎖球菌、腸球菌(泌尿器系・生殖器系の処理後に多い)です。
これ等の病気と風邪との症状の見分けをお話します。
寒気、関節痛、顔が青白くなる、痛みを伴う皮下結節、錯乱、
皮膚や白眼に現れる そばかすのような小さな赤い斑点が出てきたり
爪の下に細い赤い線(線状出血)が現れたりするのが、特徴です。
治療方法は、2週間~6週間の 点滴による 高用量の 抗生物質※投与となります。
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※ 抗生物質とは?
体の中にいる細菌を倒してくれるお薬です。
菌の種類によって、お薬を選択し、処方します。
・ペニシリン系
・セフェム系1~4世代
・マクロライド系(アレルギーのある方など)
・アミノグリコシド系(結核の場合など)
・テトラサイクリン系
・キノロン系
・ペネム系(あまり使用しません)
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では、心臓弁が人工弁の場合は、どのような治療方法になるのでしょうか?
こちらの場合は、抗生物質だけでは直りにくく、心臓手術で障害された心臓弁を
修復、あるいは 置換し、いぼ状の塊を除去します。
これ等の 「感染性心内膜炎」 を風邪だと思い込むなどして
治療しなかった場合、ほとんど致死的となってしまいます。
(※ 治療した場合は、ほとんどの患者さまが快復)
歯科医師や医師から指示があった場合は、その指示を必ず守ることで
ご自身の健康が守られます。
最近、高齢者社会になってきて、お薬を飲んでいたり
ご自分でも分からないような内容でも
様々な検査を進められてしまっているような時代だと思います。
可能であれば、血液検査の結果ですとか、
現在 服用しているお薬の手帳(「お薬手帳」)ですとか
常に携帯していただけると良いかなと思います。
他の、糖尿病や喘息などの病気も 事前に注意しなければならない
項目が多々ありますので、どんなに小さなことでも
歯科医、又は、歯科衛生士、歯科医院のスタッフにお話してくださいますよう
お願いいたします。