PARP阻害剤で副作用のない癌治療を目指す!

先日のデンタルサークルにて、安川歯科医師が現在
研究しているガン治療についてのお話がありました。

安川歯科医師のお話を基に、
現在研究が進められている 『PARP阻害剤』
というものについて
ご説明していきたいと思います。

 

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ガンの治療方法には、外科的療法(切除)・放射線療法・化学療法という3つの方法があります。

外科的療法は、ガン患部を完全に切除できるかどうかが第一であり、これ以上の発展はなく、治療法としては
ほぼ完成形であるといえます。
あとは、どれだけ切って取り除く範囲を小さくできるかというところで、それ以上の発展は見込めないのではと考えられています。

治療効果に個人差の大きい化学療法や放射線療法、お薬の効率化・確実化を図ることが現実的と考えられています。

化学療法・放射線療法は、共に、形や機能を温存することが大きな目的となります。

 

化学療法は、切らずにお薬を使った治療法ですが、嘔吐や脱毛、赤血球・白血球・血小板の減少、それに伴う貧血や深刻な感染症になったり、口内炎、下痢等の副作用があります。
このような副作用があるので、大量の投与は難しくなります。そのため、根本的な治療にはなりにくいといえます。

放射線療法では、外科的療法(手術)に匹敵する確実性を確保しつつ、人体を傷つけることも最小限に留め、病巣近くの機能を温存できる利点があります。
化学療法と同様に、形を残したまま処置できます。
しかし、適応のないガンなどもあります。
治療のために行った放射線が原因でガンになってしまうといった二次発ガンや、皮膚や粘膜や造血組織の急性障害等が起こることも考えられます。

そこで、今、研究が進められているのが『PARP阻害剤』というものです。

BRCA (breast cancer susceptibility gene) とは、ガン抑制遺伝子の一種です。
これに変異がある腫瘍細胞はDNAの修復機能が落ちて、
遺伝子不安定性(=遺伝子の生殖細胞系列変異)が生じて、最終的にガンになるのですが、増殖する程度の修復機能は残っています。
この修復に関わっているものを『PARP』(パープ:ポリADPリボースポリメラーゼ)といいます。
 
酵素の一種で、DNA損傷に伴い活性化され、遺伝子の安定性、細胞腫の誘導、細胞間のシグナル、傷害を受けたDNAを修復するなどの働きがあります。
しかし、このPARPは、上記の働きをすると同時に、細胞増殖を介してガンを作ってしまったり、ガン細胞をも育ててしまうといわれています。

そのPARPを阻害することで、少ない量の薬や放射線で治療できないか・・という研究です。
できるだけ少ない薬や放射線で副作用を抑えよう・・できれば副作用が起きないようにしようという研究です。

※先ほどお話しました『ガン抑制遺伝子の一種であるBRCA(breast cancer susceptibility gene)』が変異した細胞にPARP阻害剤が持ち込まれると、DNA修復機能が作用しないため、細胞死が起こるという訳です。

 

 

 

現在、PARP阻害剤により、細胞を使った研究やマウスを使った研究などを行っています。
これによって、腫瘍の変化の検討をしています。

この療法では、現在(2012年現在)のところ、副作用は認められていません。
PARP阻害剤を単独で使用して治療効果がないだろうか・・
PARP阻害剤を使用することで、化学療法や放射線療法の効果をもっと高めることができるのではないだろうか・・
そのような2つのパターンで研究が進められています。

現在、日本以外でも、各国では計83個のPARP阻害剤の試験がされています。
しかし、乳ガン等には、既にこの治療方法が応用されていますが、口腔ガンの領域での臨床試験は未だ行われておらず、口腔ガンの治療への応用の可能性に向けて効果を検証していきたいと思っています。

画期的な新薬の開発を現在目指していますが、研究段階のため、いつのことになるかは分かりません。
しかし、今後も新薬の開発に役立つことができればと思っております。

安川歯科医師

 

 
 

『Dental Tribune』The World’s Dental Newspaper に掲載されました!

 

当院院長:川口和子の対談が『Dental Tribune』The World's Dental Newspaperに掲載されました!

こちらのサイトは、その名のとおり、世界の医学・医療情報が沢山掲載されています。どうぞお読みになって下さい。

 

以下は、掲載された対談です。

 

“医療に人柄は大切”―次世代歯科医師へのメッセージ より

http://www.dental-tribune.com/articles/content/scope/news/region/japan/id/10713

医療に人柄は大切として,よりよい歯科診療を目指し,自己研さんに励む。その姿には人への愛情とともにプロフェッショナルとしての厳しさが感じられた。家庭と仕事を両立している川口氏に,次世代の歯科医師へのアドバイスと臨床医としての信条を聞いた。

 

――数多くの学会や講演会へ積極的にご出席なさっていますが,どのようなポイントに注目して聴講していますか。

歯科医療が急速に進歩し,特にインプラントに関しては,材質や性状・形態に対する評価がめまぐるしく変化しているように感じます。メーカーと研究者の間で評価に乖離(かいり)があると,何が真実なのか分からないときがあります。さらに,マスコミの偏った報道が一般生活者の不安を煽ることもあり,私たち臨床家は,正しいものが何かを常に見極める能力を身に付けなければ,臨床に従事してはいけないという気持ちと,焦りもあります。

講演を聴講するとき,私は演者の医療に対する姿勢や人柄がどうしても気になり,記憶に残るようです。ときには,講義内容よりも演者の印象のほうが,私の人生に大きく影響するほど強く残ることもあります。

進歩した豊富な医療機器は素晴らしい効果を上げます。ですが,「医療は人」という言葉は今も私の胸中に厳然と存在しています。「学び」も「師」も世界中に出掛けると得られる時代ですから,貪欲に,素敵なチャンスに出会える場にできるだけ身を置くようにします。すると,自然とよい方々と巡り会えます。

 

――医療への姿勢とは,患者の健康維持に参画する際の心構えということでしょうか。

その通りだと思います。たとえば,インプラントを埋入するとき,その部位には術者の気持ちも埋め込まれるような気がします。かつて,ご住職様が「お経がはっきりと聞こえますように」とおっしゃって歯並びを治療されたことがありました。今でも,「歯が無事でお経が人々の心に優しく届いていますように」と,よく思い出します。
「このインプラントを埋入したらローンが支払える」というような気持ちでは決してインプラント埋入に臨みたくはないですし,「この方がよりよい人生を送れますように」と,念じ願いながら治療しています。医療本来の持つ高い次元を忘れないでいたいです。

 

――今後の歯科界に対して,若い先生方から将来の不安を聞きますが。

世界的な不況に加えて,東日本大震災,さらには,ニューヨークの巨大ハリケーンの被害と相次ぐ非常事態が起きています。世界各地で戦争や暴動が起こり,さらなる企業経営の悪化と失業者の増加で大変な時代を迎えることになるかもしれません。

これからの時代を担う若い先生方の希望が溢れるように,私たちは何ができるかを考えないといけません。これから10年先は,今のアメリカ歯科界が参考になりましょう。かつて,アメリカでは大学の歯科講座を減らして歯科医師数を減らした結果,現在では歯科医師不足に陥りました。海外の学会に行くと「米国に来てくれる歯科医はいないか」と真剣に頼まれます。

現在の不況は,歯科界だけではありませんが,歯科医の約90%は開業医ですから,歯科医師過剰の構造不況とあいまって,不安になることは無理もないですね。ですが,このような時代こそ,知識の吸収と自己研さんを積み上げる時期と受け止め,明るい明日に向けた準備を怠らないようにお願いしたいです。

“お金は天下の回り物“とはよく言ったものだと思うのですが,どこかでお金が止まってしまわないように,個人が欲張らず,日本中が,そして世界中が潤える世の中になるといいですね。

 

――信頼される歯科医師を目指すためのステップアップ法は。

とにかく勉強すること。知識の吸収に貪欲になることが大事ですね。私は今でも多くの講演会を聴講しています。「何だ,また来ているのか」とよく言われます。「知らないから来たのよ。」と返答したら,「いつまで勉強しているのだ。早く教える方にまわりなさい」(笑)。

臨床家としてステップアップするためには,「大学に籍を置くこと」「良い研修施設に巡り会うこと」「良い友を持つこと」「良いスタディグループに所属すること」―などが挙げられます(表)。私が所属するスタディグループのISO は,「共に成長しよう」といった共通した意識で,結束も強く魅力的です。海外研修が多く,高額な費用がかかりますが,同じ歯科医師なのに「自分とどこが違うのか」がわかります。スキルアップのためには自己投資が必要です。

 

――膨大な情報が氾濫していますが,このなかで的確な情報を見分けるコツは。

インターネットの普及で,本当に必要かつ的確な情報の仕分けは至難の技ですね。常日頃から,世界情勢,経済情勢,国内外の確かなニュースに気を配って歯科界を見るようにしています。そして優れたブレインに巡り会うといいですね。情報がおかしなときには,勘が働きますので,大きく道を外すことはないでしょう。ある日,素晴らしい人に出会ったときに,チャンスをつかめる自分になっていたいですね。でも,欲張りすぎは判断を狂わしますね。

 

――努力すれば,目標とする環境に身を置くことができるということですね。

そう思います。日々,自分の考え方を変化させて成長するためには,人に好かれる人間になりたいですね。そして,人を愛せる人間ですね。さらには,何事も明るくポジティブに考えることができればいいなと思います。運,不運はあります。その場合にも受け入れて対処していけば,「あの不幸は,この幸いのためにあった」と思えるようになるのではないでしょうか。むしろ,順調な人生を歩んでいる人のほうが怖いですね。人の気持ちを理解できず,根拠なく自己を過信しないように気をつけなければ・・・。

 

――家庭と仕事の両立は,難しいことだと思います。主婦の立場から,男性の歯科医師にひと言を。

大切なことは「家庭を育てられる人」,かもしれません。患者さんの気持ちを理解できるには,まず妻の気持ちを理解できるようになれば簡単ではないでしょうか。男性は奥さんを上手に育ててください。一方で,女性は夫を「はだかの王様」にしてはいけませんね。私は結婚後歯科大学に行かせていただきました。夫は大物です。私も最大限,嫁,主婦,母を努力しました。妻としてどうだったか,夫の採点が怖いですね。 

 

――最後に,先生のこれからの目標は。

勉強は大好きですが,子どもが独り立ちするまでは,落ちぶれたくないですね(笑)
そして,主人孝行がしたいですね。温泉めぐりなどをしたり,ゆったり心を安めお互いをいたわり合いたいです。

 

 

良い臨床家を目指す7つの提案

①公認の歯科学会に所属
何かを知っているか,生涯知らないかでその人の人生は違う。学会に入る価値はそこにある。

②学会員資格の取得
公認の指導医資格取得までの目標を持ち,自己研さんし,安全な医療人になり,患者から信頼を得る。

③教育機関,研修施設で技術習得
エビデンスに基づく診療を学ぶ。

④良きスタディグループに所属
本音を語れる友,目標を共有できる友を持つ。

⑤家庭を大切にする
歯科医療の基盤は家庭である。夫婦が協力してお互いが成長し努力する。

⑥尊敬できる人と良き友を見つける
目標となる人を見つけましょう。

⑦生業のための投資を惜しまない
好奇心と向上心を持って勉強を継続しましょう。