舌癌について

 

口腔癌は、すべての癌の1~2%と言われています。その口腔癌で最も多いのが舌癌

舌癌は、口腔癌の60%を占めます。

その次に多いのが、歯肉癌。3番目に多いのが口底癌。4番目が頬粘膜癌です。

 

口腔癌の5年生存率を見ますと下記のようになっています

■上咽頭癌・中咽頭癌・・・・・・・・・・60%
■舌癌・・・・・・・・・・50%以下
■下咽頭癌・・・・・・・・・・40% ※リンパ節転移がなければ80%・転移があれば20~30%
■歯肉癌・・・・・・・・・・上顎:33.3% 下顎:25.7%

 

 

悪性腫瘍の病期分類に用いられる指標の1つに、『TNM分類』というものがあります。

『T』は、原発巣の大きさと進み具合を表し、T1.T2.T3.T4と4段階に分けられます。
『N』は、所属リンパ節の有無・大きさ・転移の範囲を表します。
転移がない場合はN0とし、N3まであります。
『M』は、肺などに転移する遠隔転移の有無を表します。
遠隔転移がない場合は、M0とし、あればM1とします。

上記のことを指標とし、0期・Ⅰ期・Ⅱ期・Ⅲ期・ⅣA期・ⅣB期・ⅣC期というように
分けられます。表記例:T1N0M0

 

初期の舌癌と口内炎の違いの1つに、口内炎は痛みを感じますが、初期の舌癌は痛みを
感じないということがあげられます。

 

舌部分切除術

舌は大きく2つに分けることができます。
舌の付け根部分である『舌根部』。そして『可動部』です。
その境を『有郭乳頭』といい、丸くポツポツしたものがそれです。(※写真参考)

舌癌の手術の場合、癌患部より10mm~15mm外側を安全域と設定し、そこまでを切除します。

 

舌部分切除術後の処置として、下記のものがあります。

☆縫縮 ・・・・・・・・・・縫い縮め

☆タイオーバー ・・・・・・・・・・人工皮膚のようなものを縫い付ける。
■手術直後~3日は、経口摂取禁止
■4日後~7日前後は、飲水やヨーグルト等の軟食開始
■タイオーバー除去後~退院は、トロミ食や三分粥等、状況に応じた食事になります。

☆ネオベール・ボルヒール
切除後、ボルヒールA液を組織に擦り込み、ネオベールという
シートのようなものを貼付し、ボルヒールA液とB液を混ぜた液を スプレーして、時間を置き、完成。
■手術直後~2日は、経口摂取禁止
■状況に応じて、ソフト食や五分粥から開始

 

舌可動部半側切除

舌可動部亜全摘出術

舌可動部全摘出

舌半側切除

舌亜全摘出術

舌全摘出

全摘出になってしまった場合、胸などの筋肉等を移植します。

治療方法は、手術の他に、放射線治療、化学療法、そして現代では新しい治療法として
免疫療法というものも考えられています。

 

口腔癌について

先日、マスコミで口腔癌について話題になりましたので、改めてお知らせしておこうと思います。

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一般的な病気に比べて、発見が遅れやすい癌。
なぜ、発見が遅れるのでしょうか。

例えば 指を切ってしまった時。 普段であれば、存在を意識せずに生活していますが、 痛みを感じると、その指に大きな存在感を感じたり、有りがた味を感じたりしますね。 内臓に関しても同じでしょう。
普段であれば、食事をした際に 食べ物がどこを通過したとか 胃や腸がどこにあるとか、考えたり 存在を感じないと思います。 しかし、胃潰瘍などの病気になると、どこに胃があるのかハッキリとした存在を感じることと思います。

しかしながら、癌が体のどこかにできた時は必ずしもそうではなく、 それほどの痛みもないことが少なくないので、毎日の歯みがきなどで自分の目で確認できるはずの 口の中の癌でさえも自覚や発見が遅くなってしまうこともあります。 舌半分ぐらいの切除で済む手術であれば、 腕の皮膚などを移植して見た目も機能もほとんど手術前と同じくらいの状態までに回復させることができます。
しかし、舌の外から見える部分ほとんどを切除しなくてはならないような手術になってしまうと、例え皮膚などを移植して再建したとしても 嚥下や発音の障害が残ってしまうので、本人に告知してからの手術ということに なってしまうのです。

そのようなことにならないためにも、やはり早期発見が大事になってきます。
口腔癌の早期発見のためにも、いつも申し上げていますように、まず歯科医院での定期健診が大切です。
口腔癌は、患者様に口を開けてもらえば、すぐに直視できる口の中の粘膜に発生するため、他の癌に比べて容易に発見できるのです。

もし、入れ歯など口内炎の原因となっているだろうと思われる刺激を除去しても 舌や歯肉などの潰瘍(口内炎)が1~2週間経っても直らなかったら・・・・ もし、口内炎の周囲が硬くなっていたら・・・
できるだけ早く歯科医院へ行き、高度医療機関を紹介してもらってください。

初期の癌
手術は、局所麻酔で30分ほどで終了。 この段階であれば、転移の可能性もなく、機能障害も ほとんどありません。

中期~の癌 
切除部分は、癌病巣の周囲2cmを含めて切除することになるので もし直径4cmほどの癌病巣であっても、 野球ボールと同じぐらいの組織が失われることになります。 首のリンパ節への転移の可能性も多く、 首の皮膚を開いてリンパ節の切除も必要になってきます。 悪性腫瘍を取り除くと同時に、失われた舌や顎を補うため、 腕の皮膚や筋肉、腰の骨などを血管につけて移植する再建手術をするため 非常に繊細で10時間以上の大手術になります。

PARP阻害剤で副作用のない癌治療を目指す!

先日のデンタルサークルにて、安川歯科医師が現在
研究しているガン治療についてのお話がありました。

安川歯科医師のお話を基に、
現在研究が進められている 『PARP阻害剤』
というものについて
ご説明していきたいと思います。

 

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ガンの治療方法には、外科的療法(切除)・放射線療法・化学療法という3つの方法があります。

外科的療法は、ガン患部を完全に切除できるかどうかが第一であり、これ以上の発展はなく、治療法としては
ほぼ完成形であるといえます。
あとは、どれだけ切って取り除く範囲を小さくできるかというところで、それ以上の発展は見込めないのではと考えられています。

治療効果に個人差の大きい化学療法や放射線療法、お薬の効率化・確実化を図ることが現実的と考えられています。

化学療法・放射線療法は、共に、形や機能を温存することが大きな目的となります。

 

化学療法は、切らずにお薬を使った治療法ですが、嘔吐や脱毛、赤血球・白血球・血小板の減少、それに伴う貧血や深刻な感染症になったり、口内炎、下痢等の副作用があります。
このような副作用があるので、大量の投与は難しくなります。そのため、根本的な治療にはなりにくいといえます。

放射線療法では、外科的療法(手術)に匹敵する確実性を確保しつつ、人体を傷つけることも最小限に留め、病巣近くの機能を温存できる利点があります。
化学療法と同様に、形を残したまま処置できます。
しかし、適応のないガンなどもあります。
治療のために行った放射線が原因でガンになってしまうといった二次発ガンや、皮膚や粘膜や造血組織の急性障害等が起こることも考えられます。

そこで、今、研究が進められているのが『PARP阻害剤』というものです。

BRCA (breast cancer susceptibility gene) とは、ガン抑制遺伝子の一種です。
これに変異がある腫瘍細胞はDNAの修復機能が落ちて、
遺伝子不安定性(=遺伝子の生殖細胞系列変異)が生じて、最終的にガンになるのですが、増殖する程度の修復機能は残っています。
この修復に関わっているものを『PARP』(パープ:ポリADPリボースポリメラーゼ)といいます。
 
酵素の一種で、DNA損傷に伴い活性化され、遺伝子の安定性、細胞腫の誘導、細胞間のシグナル、傷害を受けたDNAを修復するなどの働きがあります。
しかし、このPARPは、上記の働きをすると同時に、細胞増殖を介してガンを作ってしまったり、ガン細胞をも育ててしまうといわれています。

そのPARPを阻害することで、少ない量の薬や放射線で治療できないか・・という研究です。
できるだけ少ない薬や放射線で副作用を抑えよう・・できれば副作用が起きないようにしようという研究です。

※先ほどお話しました『ガン抑制遺伝子の一種であるBRCA(breast cancer susceptibility gene)』が変異した細胞にPARP阻害剤が持ち込まれると、DNA修復機能が作用しないため、細胞死が起こるという訳です。

 

 

 

現在、PARP阻害剤により、細胞を使った研究やマウスを使った研究などを行っています。
これによって、腫瘍の変化の検討をしています。

この療法では、現在(2012年現在)のところ、副作用は認められていません。
PARP阻害剤を単独で使用して治療効果がないだろうか・・
PARP阻害剤を使用することで、化学療法や放射線療法の効果をもっと高めることができるのではないだろうか・・
そのような2つのパターンで研究が進められています。

現在、日本以外でも、各国では計83個のPARP阻害剤の試験がされています。
しかし、乳ガン等には、既にこの治療方法が応用されていますが、口腔ガンの領域での臨床試験は未だ行われておらず、口腔ガンの治療への応用の可能性に向けて効果を検証していきたいと思っています。

画期的な新薬の開発を現在目指していますが、研究段階のため、いつのことになるかは分かりません。
しかし、今後も新薬の開発に役立つことができればと思っております。

安川歯科医師